トルクレンチ(プリセット型)の正しい使い方と10個の間違った使い方

工具

 

  • 締め付けトルクって何?
  • とりあえずねじは力いっぱい締めればOKっしょ?
  • トルクレンチ使ってれば何でも大丈夫でしょ?
  • 目盛りってどうやって読むの?
  • トルク値ってどうやって変えるの?
  • 2回カチカチするのってダメなの?

 

 

こういった「とりあえず力いっぱい締める」といった認識では、締めすぎによりボルトが折れてしまいます。

もしこれが重要な部分のボルトだった場合、折れてしまうと大変です。

 

車ではホイールナットの締め付け過ぎによるボルト折れは最悪の場合、タイヤが外れてしまいます。

整備現場のプロでも作業の最後にはトルクレンチを使って増し締め確認をします。

 

今回は、トルクの正しい知識とトルクレンチの正しい使い方について一級自動車整備士の私が解説します。

トルクとは、ねじる力(回転力)の強さ

最初にトルクについて解説します。

トルクとは、ねじる力の強さのことで、トルクを数値化したものをトルク値と言います。

 

トルク値の単位

トルク値の単位は世界共通で「N・m(ニュートンメートル)です。

次に解説する計算式に使用される単位の「N(ニュートン)」と「m(メートル)」から「N・m(ニュートンメートル)」と決められています。

 

あまり多くはないですが、「kgf・m(キログラムメートル)」と表記されることもあります。

これは1993年11月以前に、主に使用されていた単位のことで、「N・m(ニュートンメートル)」同じくトルクの単位として使用されることが稀にあります。

 

「kgf・m(キログラムメートル)」と「N・m(ニュートンメートル)」は同じ計算式ではないので単位を換算する必要があります。

もし換算が必要な場合には超有名工具メーカーのKTCさんのサポート情報の単位換算ページから確認すると分かりやすいですよ。

 

ニュートンとは?

単位の1つで「1N = 9.8kg」です。

ニュートンの単位はイギリスの物理学者のアイザック・ニュートンから由来しています。

リンゴが木から落ちるのを見て発見した万有引力の法則のアレです。

 

トルク値の計算方法

計算式
トルク(N・m)加える力(N) x ボルトの中心から力を加える点までの距離(m)
「ボルトの中心から力を加える点までの距離」というのはトルクレンチの長さと考えると分かりやすいです。
例えば50cmと1mのトルクレンチの2種類があり、100N・mで締め付けたい場合では次のように変わってきます。
・50cmのトルクレンチ
100N・m = 200N x 0.5m
・1mのトルクレンチ
100N・m = 100N x 1m
このように同じ締め付ける力でも、50cmのトルクレンチの方が加える力(N)が多く必要になるので
短いトルクレンチよりも長いトルクレンチの方が楽に締め付けできます。

力いっぱいではなくトルクレンチを使って規定トルクで締める

例えば「力いっぱい締めてください」と言われた際、作業者がマッチョな人と一般的な人の場合、それぞれの筋肉量の違いますよね。

筋肉量の違いから「力いっぱい」だと締め付ける力に差が出てしまい、締め足りなかったり締めすぎてしまう可能性があります。

上記のように作業者がどんな人でも同じ力で締め付ける必要があるので締め付け部分にはトルク値が指定されています。

 

この決められたトルク値のことを「規定トルク」や「締め付けトルク」という言い方をします。

 

とはいえ規定トルクが分かっても、人間の感覚では判断が難しいので締め付けにはプロの整備士もトルクレンチを使います。

 

トルクレンチの正しい使い方

トルクレンチには種類がありますが、プリセット型のトルクレンチの使い方について解説します。

トルクレンチの種類については下記で解説しています。

トルクレンチの正しい握り方

冒頭の「トルクとは、ねじる力(回転力)の強さ」で計算式を解説しました。

 

計算式
トルク(N・m)=加える力(N) x ボルトの中心から力を加える点までの距離(m)

 

この「力を加える点」というのは、トルクレンチを握る場所のことを示しています。


画像の赤矢印で示したように、ほとんどのトルクレンチにはグリップの中央に溝やマークなどの印がついていて、その印に中指を合わせることを想定したトルク設定になっています。

 

もし印がないモデルのものはグリップ部分の中心に中指を合わせます。

 

トルクレンチの印(赤矢印)に中指(青矢印)を合わせて握ることが正しい握り方となります。

 

短く持っているため、印(赤矢印)と中指(青矢印)が一致していません。

 


長く持っているため、印(赤矢印)と中指(青矢印)が一致していません。

 

このように印以外の部分を握って作業すると力を加える点までの距離が変わってしまいます。

 

結果、実際かかるトルクと設定したトルクに誤差が出てしまいますのでNGです。

トルクレンチの印に中指を合わせて使用してください。

 

トルクレンチの調整の仕方

私の所有しているプリセット型を例にトルク値の調整方法を解説します。

 

プリセット型などのトルクレンチの種類、おすすめのトルクレンチについてはこちらで解説しています。

・手順1 ロックの解除


ロックを解除します。

UNLOCKの方向である左回転に半回転~1回転程度、回します。

 

・手順2 トルク値の設定


グリップ部分を回転させ、主目盛り・副目盛りを足し算して任意のトルク値に合わせます

(汚くてごめんなさい・・・)

 

主目盛りと副目盛りの見方とは?

トルクレンチの主目盛りと副目盛りの見方・主目盛り

赤矢印(段差部分)を横ラインとして、一致している主目盛りを見る。

・副目盛り

青矢印(真ん中にある縦溝)を縦ラインとして、一致している副目盛りを見る。

 

私のトルクレンチの場合、主目盛りは10N・m刻み、副目盛りは1N・m刻みです。

この場合、主目盛り(90)+副目盛り(0)=90N・mです。

 


この場合、主目盛り(100)+副目盛り(3)=103N・mです。

 

・手順3 ロック

作業中にグリップが回転してしまうと、せっかく設定したトルク値が変わってしまうので、手順1で解除したロックを忘れずにLOCK方向である右方向に回転させます。

 

指で締めれるまで回す程度で問題ないので、ロックするために工具は不要です。

 

増し締めの方法

今回はホイールナットを参考に解説します。

 

(手順0 規定トルクの確認、トルクレンチのトルク値設定)

出典:プリウス取り扱い説明書

ホイールナットの規定トルクは車の取り扱い説明書に書いてあります

ZVW30 プリウスを参考にしますと第5章の「緊急時対処法」の430ページに記載がありました。

 

出典:プリウス取り扱い説明書

その他の車種でも「タイヤがパンクした場合」などに記載があるかと思います。

索引では、た行の「タイヤ」「交換」から見つけることが出来ました。

 

ZVW30 プリウスの規定トルクは103N・mですね。

 

ZVW30って?
プリウスの型式のこと。
車種を詳しく特定するために挙げたので、覚える必要は全くありません。

手順1 手で締めた後に工具で締め付け

まずは手でナットを取り付けて締め付けていきます。

この段階ではジャッキアップの状態なので手で締め付けた後にトルクレンチではない工具(普通のレンチなど)で、ある程度締め付けます。

ある程度ってどのぐらい?
ホイールナットが空転しなくなるまで工具で締め付けた後、工具をトントンと手で2~3回ほど叩く程度でOKです。この段階では体重をかけたり、工具を足で踏みつけるなど、力いっぱい締める必要はありません。

手順2 トルクレンチをセット

ジャッキを下ろして、タイヤを地面に接地させます。

締め付けたいホイールナットにトルクレンチをしっかり奥まで差し込んでセットします。

撮影のため手を放しましたが、トルクレンチを落してしまう可能性があるので作業時は手を放さないでください

 

トルクレンチをセットする角度に特に決まりはありませんが、私は画像のような大体45°ぐらいにセットすると力をかけやすいと感じます。

ご参考まで。

また、力をかけたときにトルクレンチがナットから外れてしまう可能性もありますので写真のように左手を添えてください。

 

手順3 トルクレンチにゆっくり力を入れて締める

ゆっくり力をかけて締め付けていき、「カチッ」と音が鳴るなど規定トルクに達するまで締め付けます。

ゆっくりと力をかけたときに軽い力でトルクレンチが回転してしまうようであれば、手順1で解説した「ある程度の締め付け」が出来ていない可能性が高いので、再度トルクレンチ以外の工具を使って締めなおしてください。

 

トルクレンチの間違った使い方や注意点

最初からトルクレンチや工具で締めない

ボルトやナットを締め付ける際、最初は工具を使わず手で締めれるところまで締めます。

 

最初から工具を使うとボルトが斜めに入り込んだり、ねじ山に無理な力がかかってしまってねじ山が潰れたり折れてしまう可能性もあります。

 

また、多くのトルクレンチはラチェット機構になっており、ガチャガチャと締めることが出来ますがトルクレンチは何度もガチャガチャと締め付ける工具ではないので、ラチェットとして使いません。

 

軽い力でトルクレンチが回転してしまうようであれば、再度トルクレンチ以外の工具を使って締めなおしてください。

 

一気に力を入れない

一気に力を加えると瞬間的に強い力がかかり、規定トルクを越えた強い力で締めてしまう可能性が高く、締めすぎ(オーバートルク)の原因になります。

 

締めすぎは、ねじ山を潰してしまったり、ボルトが折れてしまう可能性もあります。
締めすぎないようにゆっくり力をかけてください。

 

足で踏みつけるなど、力をかけ過ぎない

こちらも上記と同じく締めすぎになる可能性が高いためNGです。
ガンガン蹴りつけるような使用方法もNGです。

 

トルクレンチを使用するボルトやナットにもよりますが、ホイールナットの場合は少し腕に体重をかける程度で規定トルクに達するかと思います。

 

どうしても規定トルクまで達しない場合は使用方法か使用しているトルクレンチに問題がある可能性があります。

 

規定トルクに達した後は力をかけ続けない

プリセット型でいうと「カチッ」と音が鳴ったところが規定トルクに達した締め付け強さです。

規定トルクに達した後も力をかけ続けると規定トルクを超えたトルクがかかるので締めすぎになります。

 

2回以上締めない

「ちゃんと締まったかな?」と不安になってしまい、何度も締め付けてしまいそうになりますが、こちらも2回以上締めることで締めすぎになります。

 

トルクレンチを緩める作業に使わない

トルクレンチは締めるときに使用する工具です。

精密工具なので用途以外のことに使用すると正しいトルク設定ができなくなる可能性もあるので緩めるときにトルクレンチを使用してはいけません。

 

最大、最小トルクで使わない

プリセット型やデジタル型に調整範囲がありますが、最大、最小トルクで使用するとトルクレンチの寿命が縮まってしまいます。

 

例えば最大トルクで作業し続ける場合、人間で言えば常に全力疾走していることになります。常に最大の力を出し続けるには限界がありますよね。

 

おおよその目安ですが、調整範囲の2割~8割程度のトルクで使用すると長く使用できます。

 

この2割~8割の範囲を外れる場合は別の調整範囲を持つトルクレンチを用意した方が良いですね。

 

落したり、投げたりしない

精密な工具なので、落したり投げたりすると強い衝撃が加わり、内部機構が壊れてしまう可能性があります。

 

また、トラックの荷台など振動の激しい場所に置いておくことも壊れてしまう原因になります。

 

例えば精密な機械であるパソコンも投げたりしませんよね?

トルクレンチも同じく大切に扱ってください。

 

トルクを設定したままにしない

トルクレンチは内部のバネを縮めていくことで設定トルクを変更できる機構になっています。

 

トルクを設定したまま放置してしまうと内部のバネに常に負荷がかかっている状態になるので正しいトルク値で締められなくなる可能性があります。

 

とはいえ、ねじ1個締める度に変更する必要はないので、その日の作業が終わったら設定トルクを最小にしてください。

最小のトルクってダメなんじゃないの?
最小のトルクで使用するとあまり良くありませんが、保管する場合には内部のバネの保護の目的で最小にするので問題ありません。

湿気の多い場所で使用・保管しない

何度もお伝えしていますが、精密工具なので内部に湿気が入り込むことでサビる原因になります

 

雨の降っている中で作業することは少ないかと思いますが、保管方法として湿度が高い場所での保管をしないように注意してください。

 

まとめ

間違った使用方法をしないことで、正しい作業や正しい保管ができるので1つのトルクレンチを長く使用できます。

 

消耗品のように何度も買い替える道具ではないので正しい使用方法や保管方法で、正しく締め付けられるようにしてください。

 

最後まで見ていただき、本当にありがとうございます。

皆様の疑問が解消できたのであれば大変嬉しく思います。

 

中盤でもご紹介しましたが、トルクレンチの種類やおすすめのトルクレンチについてはこちらで解説していますので、合わせてご覧ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました